私の理由 キヨミ③
#9 路上 昼 |
新宿3丁目あたりの裏通り。
男が道へ倒れ込む。男は27・8歳の気弱そうなサラリーマンだ。
男、殴られた頬を押えながら、いまにも泣き出しそうな表情で
男「キ、キヨミちゃん…どういう事だよッ?」
男の視線の先にはキヨミとミウラが立っている。ミウラの左手には
注射器が握られている。
ミウラ「どーもこーも、すぐ済むからおとなしくしてくれって言ってんのに
暴れるから………」
男「け、警察を呼ぶぞッ」
キヨミ、きびしい表情で
ミウラ「とぼけてるんじゃないでしょうねッ」
男「な、なにがだよ…なんなんだよ一体…」
ミウラ、2人のやり取りを聞きながら「またハズレだな」という表情。
ミウラ「ワリーね。一応頂戴。血!」
血を吸いこむ注射器のアップ。
#10 ラブホテル 夜 |
ラブホテルの一室。ダブルベッドの上にカジュアル姿のキヨミが座っている。
バスルームのドアが開き、腰にタオルを巻いた中年の男が出てくる。
顔には既に好色そう笑いが浮かんでいる(説明はないが他校の体育教師の
設定)。
教師「キミの方から連絡もらえるなんてうれしいねえ~。制服はちゃんと持ってきて
くれたんだよね?」
キヨミ、男を見て無言でニッコリと微笑む
教師「こづかいなくなっちゃったのかい? それともコレが忘れられなかった
のかな?」
キヨミに見せつけるようにタオルを取る男。すでに勃起している。
男の後ろにスッとミウラが立つ。その表情はやはりニッコリ。
#11 三浦医院 |
院長室。部屋には医師とミウラの2人だけ。
医師の机の上には採血管が3本。注射器にはそれぞれ「リーマン」
「教師」「リーマン・ハゲ」と書かれた紙が貼られている。
医師(兄)はそれを手に取り、ため息交じりに
医師「お前なあ…本人の承諾も無しにエイズ検査なんかして、もしバレたりしたら
免許取り上げどころか、下手すりゃ捕まっちまうんだぞ…」
ミウラ「そこを何とかたのむよ~。頼んだぜお兄ちゃん」
言いながら部屋を出ていくミウラ。
医師「オ、オイッ……ったく…」
さらにため息をついて、悲し気な表情でドアを見る医師。
医師「…………」
#12 新宿アルタ前。昼 |
アルタ前広場。人々が行きかうなか、キヨミがガードレールに腰掛けている。
その隣にミウラがしゃがみ込んで手帳を開いて見ながら
ミウラ「3人中1人当たりか…結構な確率だな…。この分じゃちゃんと俺を
通した客の方も何人感染(ウツ)ってることや──ブッ!」
ミウラの顔にキヨミの学生バッグが直撃する。
キヨミ、ミウラの前に立ち、偉そうに見えるほど強気に
キヨミ「いまさらウダウダ言ってんじゃねえよッ! セックスして感染ったんなら
性病みたいなもんでしょう!
女で喰ってんだったら、それ位の覚悟決めとけてんだよッ バカッ!!」
ポカンとキヨミを見るミウラ。握られた手が震えていることから
キヨミの強気がかなり危ういものだと察する。
ミウラ、微笑んで立ち上がり、手帳で軽くキヨミの頭を叩き。
ミウラ「そうだな。けど、いっこ間違ってるぜ」
キヨミ「エ?」
ミウラ「性病みたいなもんじゃなくて、性病なんだよ。さ、次は?」
先に歩きだすミウラ。少し申し訳なさげに後を追うキヨミ。
つづく
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